はじめに
現在多くのメーカーで行われている家電製品の使い易さの調査は、そのほとんどが、アンケート方式などユーザの主観報告によるものである。また実験者による観察も行われるが、ユーザを社内に呼び出して、実験質的実験スタイルで行われるものが中心である。
増え続けるリモコンのボタンの配置デザインを行う際に、実際にユーザがどのボタンをどの程度、どのような状況下で使用するか、といったデータは大変重要である。しかしながら上記のような方法では、このようなニーズに正確に答えることはできない。使用したボタンをその都度ユーザに記録してもらう方式では、ユーザの負担が大きすぎるし、正確さも期待できない。また社内実験で得られるデータは、家庭などの実際の使用場所でのそれとは状況があまりにも異なり、これも信頼性は甚だ疑わしい。また社内実験のデータでは製品の初期使用での問題点は発見できても、習熟後の使用感などを含めた長期的な視点での問題発見は困難である。
本件では、リモコンから出る赤外線信号を自動的に記録する装置を用い、ユーザに負担をかけず、かつ長期的に実際の使用場所での使われ方に関するデータを収集/分析する実験について報告する。
実験システムについて
今回実験に用いた 松下電器製のビデオ・コンピュータ・インターフェイスAG-VC205(以下Pana-Box)は本来ビデオデッキなどの機器をコンピュータのシリアル・インターフェースを通して制御するものであった。しかし、本件の為に製作して頂いたソフトウェア「IRREC」と組み合わせて使用する事で、Pana-Boxに入力されたリモコンの赤外線信号を、日時と共に記録する事が可能になった。記録システムは24時間稼動とした。
今回調査対象とした機器は、テレビ、ビデオ、オーディオ(CDラジカセ)の3製品であった。
赤外線信号のみからの意図抽出について
果たして、このように収集したデータから、当時のユーザのゴールや意図がどの程度読み取る事が可能なのだろうか。これについて調べる為、ある操作シナリオを用意して、それに基づいて操作した記録のみから推定したシナリオとの一致度を調べる予備調査を行った。4人分のデータについて、2人が協調でシナリオ再現にあたった。元のシナリオにあった項目を、どれだけ再現できたかをカウントしたところ、平均再現率は約7割であった。実際の家庭での条件では、本体とリモコンとを使って操作されるケースも有りうるので、リモコン使用データだけからユーザの意図を読み取るのは更に困難だと言え、前途は明るくない。
機械的な分析
一方でコンピュータを用いた文字通り機械的な分析も合わせて行った。分析はボタン別の使用頻度とシークエンス分析の2点について行った。特に2点目は、筆者が提案した分析で、例えば続けて操作するボタンの組み合わせがある、という事がわかれば、それらを近接して配置する事で、ユーザは一連の作業をする間に何度もフタを開けたり閉めたりしなくて済むと考えられる。特に異なった製品間で連続して操作されるボタンを見出す事ができれば、単に複数のリモコンを1つにしただけの融合リモコン以上のものがデザインできるのではないだろうか。例えば、通常のオーディオ機器でCDからテープへダビングを行うおうとする際は、CDプレイヤーの再生操作、テープデッキの録音操作、またアンプやセレクタの切換操作が必要になってくる。これらは別製品(あるいは別セクション)に対する操作なので、普通ならばその為のボタンはそれぞれは離れて配置されているだろう。ここで「CDからテープへダビングする為に使うボタンのゾーン」というものを提供できると、ユーザは操作も楽であるし、そこに必要なものが揃っているので、何をどうすればいいのかが比較的容易に理解できることが考えられる。
今回は連続した同じ3つのボタンの組み合わせが押されるパターンを抽出した。順序を固定で分析しており、同じ組み合わせでも順序が異なれば別物として扱っている。

上記の様な方法で分析をしたが、残念ながら興味深いシークエンスは見出せなかった。例えばT家で個別のリモコンを使用した時のデータで、際立って高頻度で現れるパターンは3つあったが、その内容は以下のようなものであった。
| tv:ch1,tv:ch2,tv:ch3 | 49回 |
| tv:ch2,tv:ch3,tv:ch4 | 45回 |
| tv:音量UP,tv:音量UP,tv:音量UP | 47回 |
興味深いシークエンスが得られなかった理由としては、3製品のデータを収集したにもかかわらず、テレビの、それも比較的決まったボタンしか使用されていなかった事などが考えられる。
シークエンスの中身を順不同に捉えて分析すれば、あるいはまた違ったボタン群の傾向がつかめるかも知れない。またボタンをチャンネル関係、音量関係といった様にグルーピングし、グループ間の相関を調べる事も有効であろう。これらの可能性の検討は今度の課題としたい。
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