「意味構造表記ツールによる外国語読解プロセス外化の効果」

概要

 本ページでは、卒業論文において行った、自動翻訳とは異なる、ユーザ主体の英文読解支援ツールの構築と評価について紹介する。

  • 仮説
    1. 直線的に記述された文章の係り受け関係を可視化する事で文の構造理解を容易にできるのではないか?
    2. 原則として日本語では助詞、英語では語順で文の成分(主語、述語、etc.)を表現するという文法の差異を、グラフィカル・リプリゼンテーションを中間言語として用いる事で、ある程度吸収できるのではないか?

    以上の2種類の点について、コンピュータが自動的に行うのではなく、ユーザ自身に自発的に操作、再吟味させる事で、英文読解の支援効果及び教育効果が得られるのではと仮定した。

  • ツール概要
  • ツール名:TransAssist
    動作機種:Macintosh
    機能概要:エディタなどからコピーしてきた英文を単語単位にブロック化して、直線上に並べて表示する。ユーザはマウスで1つないし複数を同時に自由に移動する事ができる。配置以外のモーダルとして、ブロックの色が8色指定できる。新規にブロックを作成する事も可能で、パラフレーズや部分訳を行う事ができる。

    Screenshotof TransAssist

    図1.上記例文を『TransAssist』で表現した画面例

    例文.I emphasise this stated goal, for I believe what the Ortony et al. accomplish is something quite different than a causal theory, though potentially no less important.

  • ユーザビリティ評価
  • タスクが新奇なので、実験群ユーザには6週間の試用期間の間、論文などを読む際に本ツールを使用してもらった。

    実験の流れ

    実験群 統制群
    PrePaper
    PreTool
    試用期間×
    PostTool
    PostPaper

    テスト形式

    TOEFLの長文読解問題を使用。4択問題4問に続いて、文章の概要を口述し、採点。辞書は使用可。

  • 予 想
  • 本ツールに読解支援効果があるのならば、統制群よりも実験群の得点が高くなると考えられる。その差は実験群の方が顕著であると予想できる。 また教育支援効果があるのならば、統制群でPreとPostを比較した時に、実験群の方が成績向上率が高くなると予想できる。

  • 結 果
  • 残念ながら予想した結果は出なかった。むしろ実験群の方が得点が落ちるケースが多かった。成績とツールの使用頻度の相関もそれほど見られなかった。

  • 考 察
  •  テストの遂行時間が短かったと考えられる。30分という時間は、統制群で解答するのにギリギリといった状況である、更に操作時間などがかかる実験群では最後まで行かないで時間切れ、というケースが多かった。実験群で余分にかかる時間を考慮に入れて実験時間を設定する必要があった。充分な時間が与えられていれば、実験群の得点もあるいはもう少し高くなったのではないだろうか。


     しかしながら三宅先生との議論を通して、本ツールの本質は時間的な効率の向上にはないと考えられるようになってきた。
    むしろこのインターフェースの重さが、通常の紙での読解であれば流し読みしてしまう様な文に対して、より深いレベルまでの読解を促すと考えられるのである。普通なら「なんとなく意味が取れた」程度で次に行ってしまうところに、このブロックを配置するというタスクが入る事で、文の構文構造まで考える必要が出てきて、結果誤解に気付いたり、もっと深い意味がある事に気付かされる可能性が拡大すると考えられる。

     このツールがもっとも有効に作用するユーザ像および場面とはどのようなものであろうか。 ひとつには、英語がまったくできないユーザが独力で活用することは困難であると思われる。多少の英語力があって、ある程度配置を実行してみる過程で、頭の中の構文構造と外化されたブロックの配置との間でインタラクションが生じ、操作と再吟味のループが形成されるものと思われる。
    英語の力があまりないユーザの場合は、もう少し力のあるユーザと協調で英文を読んでみる、という使い方が有効ではないだろうか。英語のできる人の構文解析の仕方が視覚化されていく過程を目の当たりにする事や、自分の構文解析を他人に吟味してもらう機会ができる事で、構文に対する新しい理解や発見が可能になる事は想像に難くない。

     逆に英語の力がかなりあるユーザの場合はどうだろうか。普段、なんの滞りもなく英文が読めるユーザの場合、このようなツールを使うまでもないであろう。ただ、こうしたユーザの場合でも、書籍の翻訳などの正確さが要求される読解では、複雑な構文の文やクリティカルな点について言及している文については、TransAssistが有効であると考えられる。 また共同翻訳のような場面では、先にも述べたTransAssistの協調使用が、互いの読み方を視覚化して相手と共有する事を可能にし、両者納得の行く訳を見出すことに一役買えるのではないかと考えている。


     現在、TransAssistは、三宅なほみ研究室の電子文房具プロジェクトの一環として、改良発展を続けています。TransAssistホームページへどうぞ。
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